ALifeとVRの交差点──バーチャルリアリティで「心と意識」の謎を読み解く

東京大学での人工生命に出会った研究者・鈴木啓介はいま、イギリス・サセックス大学でバーチャルリアリティ(VR)を使った幻覚体験をつくり出している。一見、別軸の領域に見える「ALifeとVR」を横断することで、彼はいかにして心の謎に迫ろうとしているのか?

インタビュイー
鈴木 啓介

PROFILE

まず、鈴木さんのキャリアから教えてください。人工生命の研究に入られたのは、どういう興味があってのことだったのでしょうか?

学部時代の専攻は物理で、修士・博士課程で東京大学の池上高志先生の研究室に入りました。2007年にPh.D.(物理学)を取ったので、もう10年以上前ですね。大学院の6年間、そこで人工生命の研究をしていました。

PHOTOGRAPH COURTESY OF ALIFE Lab. (BY-NC 3.0)

池上先生も出身は物理で、その中でも非線形物理学という分野を専門としています。これは、たとえば「煙突から出る煙がどう広がるか」というような、いわゆる古典的なニュートン力学では解けない問題のこと。生命現象もその一部に含まれるのですが、通常とは異なる複雑な現象を扱う学問です。その一環として、人工生命という分野があります。複雑過ぎて今までの物理では扱えなかった生命や人間の心のメカニズムを扱おうというものです。

もともと生命や意識に興味がありました。なかでも最も興味があったのが、物質から生命に変わる瞬間にどんな原理があるのかということです。池上先生の著書『カオスと複雑系』などの複雑系の本を読んで、人工生命という分野がその答えに近い気がしたんです。

それに加えて、細胞やDNAをいじるよりも、複雑な現象をそのままコンピューターでシミュレートして理解するという研究に将来を感じたんですね。「おそらく進化はこういうふうに起きるのではないか」「生命はこう振る舞うのではないか」とコンピューターでモデルをつくって、できあがったものを見る。つまり、計算機でプログラムを書いて現象をつくり、それを理解しようというアプローチです。

博士課程での研究である、原始的な細胞モデルのコンピュータシミュレーションのひとつ。膜があることで内と外が生まれる。これは生命の起源でも、あり「自己」の起源でもある。

池上研で人工生命を5年間研究したあと、どのようにバーチャルリアリティ(VR)の研究へ進んだのでしょうか?

博士過程の後半から先輩の鈴木健さん(現スマートニュース共同代表)が立ち上げたスタートアップで働いたのちに、研究にまた戻ろうと思ったタイミングで理化学研究所の藤井直敬先生が研究室を立ち上げるということで参加させていただきました。ここで大きくトピックを変えて、人工生命からVRをつかった認知神経科学の研究に移りました。藤井さんのところには3年間ほどいました。それからいまもその延長上で、ずっとVRによる意識の研究をしています。

人工生命とVRは、鈴木さんの中でどうつながっているのでしょうか?

いずれも「リアルなものを人工的につくってみる」という意味で、僕の中ではつながっています。たとえば人工生命では、地球上に存在する生物のような存在をコンピューターでつくることで生命のメカニズムに迫る。そして現在は、人間が知覚するリアルな世界をバーチャルリアリティに置き換えることで人の心や意識の謎に迫っています。僕の中ではこの2つは同じアプローチで、対象が「生命」から「自分の心」になっただけなんです。

もうひとつの理由として、池上研で人工生命の研究をしていたときから「自己=セルフ」に興味があったことがあります。自己というのは、世界や他者と区別される形で定義される。細胞も同じで、膜があって物理的に外側と内側が区別される。そして内側では、自分を維持しようというメカニズムが働きます。細胞モデルを扱っていた頃でも、心を扱っている今でも、「自己」が研究テーマの中心にあることは変わりません。

鈴木 啓介 Keisuke Suzuki

サセックス大学のサックラー意識科学センター(SCCS)リサーチフェロー。 最先端のバーチャルリアリティと機械学習の手法を使用して、身体的自己、幻覚、知覚的存在など、人間の意識のさまざまな認知神経科学分野の研究をしている。(出典;https://www.researchgate.net/profile/Keisuke_Suzuki3)

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