人類はまだまだ生命の謎を知らない──ALifeというオープンエンドな「問い」を求めて

イタリア・トレント大学の人工生物学研究所所長を務めるマーティン・ハンジクは、人工細胞を用いることで生命の謎を探究する。果たして人類はいずれ人工的な生命体をつくり出すことができるのか? それによって現在地球に暮らす生物の未来をも知り得るのか? 生命の謎を探究するための旅は、まだまだ始まったばかりだ。

インタビュイー
マーティン・ ハンジク

PROFILE

マーティンさんが人工生命の研究を始めた背景について教えてください。

はじまりは生命の進化に対する興味でした。ラボの中で進化のモデルが再現できれば、生物学や生命そのものを理解する上で役に立つと考えたのです。生命のシステムに応用できるテクノロジーとは何かを求めて、これまで分子生物学の実験に人生の大半を費やしてきました。

PHOTOGRAPH COURTESY OF ALIFE Lab. (BY-NC 3.0)

人工生命という分野と出会ったのはいつですか?

2003年頃です。もともとはハーバード大学で後期博士課程にいた際にサイドプロジェクトとして始めました。「人工細胞」と呼べるものは構築できるのかどうかを立証するプロジェクトでした。当時は風変わりなテーマに熱が入ったのを覚えています。

どのようなアプローチで最初の一歩を踏み出したのですか?

実験そのものが完全な手探りの連続でした。最終的に人工的な細胞膜といくつかの分子を結合することで、細胞に類似した構造物をつくり出すことに成功しました。これを人工細胞と呼ぶことにしたのです。

それが人工生命を探求するきっかけだった?

この時はまだ断片的なきっかけに過ぎませんでした。それから数年の後に人工生命という概念が次第に着目されるようになっていきました。その際に、私を人工生命の分野に誘ってくれたのが、東京大学の池上高志教授でした。

池上教授は人工生命コミュニティと深い関わりがある方です。彼と共同で実験を進めていく中で、私が国際的な会合で初めて人工生命について発表することを後押ししてくれました。それ以降、私も人工生命コミュニティに研究者として招かれるようになり、現在にいたります。

人工生命を探求する最終的な目的とは?

現在、いくつかの異なるプロジェクトを進めています。その中のひとつが、生命のダイナミクスを解明すること。生命というシステムの根幹を成すのは「成長」と「再生」です。生き物は外部からエネルギーを得て、それを消費することで次世代へと自己複製を繰り返します。それこそが進化の原理です。私の研究チームは、異なるタイプの分子構造を使った多種多様な実験を通して、こうした生命の仕組みを人工的に再現しようとしています。

そこにいたるまでの課題は何ですか?

いかに生命と環境との相互作用を人工的に再現するかが課題になるでしょう。私たち人間を含めた既存の生物には、環境から様々な情報を読み取るためのセンサーが備わっています。このセンサーを通して、自らが認識した世界の中で行動様式を決定しているわけです。人工生命を構築する上では、この点が非常に重要な鍵を握っています。

マーティン・ ハンジク Martin Hanczyc

生物学、遺伝学、進化論を発端に、過去14年にわたり、物理学へと研究分野を拡大。扱っている研究プロジェクトは多様で、 界面ダイナミクス、複雑な化学のモデリング、最適化戦略、ロボット化学インターフェース、合成生物学、建築およびエンジニアリング用の新材料など。 現在、統合生物学センターおよびトレント大学(イタリア)の主任研究者.また、アーティストや建築家と協力して、一般向けのアウトリーチプロジェクトを開発にも携わる。 (出典;https://it.linkedin.com/in/martin-hanczyc-a4947a67)

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