これからの時代は”役に立たない”が役に立つ。ALifeと「終わらないもの」の可能性

ニューヨーク州立大学ビンガムトン校システム科学・産業工学科 教授、そして複雑系集団動態学研究センター長を務める佐山弘樹。人工生命から進化、集団、組織体、ビジネスモデルまで。縦横無尽に「終わらないプロセス」を探求する彼が考える、これからの時代における「役に立たないもの」の可能性とは?

まずは佐山さんの経歴からお聞きしたいのですが、研究者としての出発地点、そもそもの専門分野はどこになるのでしょうか?

もともとの学位は情報科学です。東京大学大学院理学系研究科(情報科学専攻)で学位を取りましたが、そのときの学位論文のテーマがALifeでした。進化系を決定論的な系の中につくるという話です。そのあとポスドクで3年間、ボストンのニューイングランド複雑系研究所に。3年目に911が起きて帰国し、電気通信大学で4年間教員をやりました。そのときは人間コミュニケーション学科です。そのあたりからですね、社会科学系とのつながりが増えてきたのは。ビンガムトン大学に移籍したのが2006年です。最初は生命工学科でしたが、2015年にシステム工学科に移って、今に至ります。

要は、「計算機を使って何でもやる」というのが私のスタンスです。分野自体は何でもよくて、ビジネスのモデリングをしたり、組織でもいいし、生物のメカニズムでもいい。イノベーションという見方で言うと、組織のイノベーションであっても、生物学的なイノベーションであっても、全部同じ話です。進化的なシステムがどうやってイノベーションを起こすのかがわかれば、企業の実践に応用することもできるはずですから。

私が学位論文を出した1998年当時、指導教官も含めて、情報科学では複雑系がわかる人はいませんでしたね。「何か役に立つんですか?」と言われて、「まったく役に立ちません」とはっきり言っていました。今もそうですが、役に立つこと、きれいに説明できることに興味がない。だから、なかなかお金にならないのですが(笑)。ただ、その状況も今後はおそらく変わってくると思います。きれいに説明できることだけでできることはほぼ終わってしまったからです。

これまでの経済は、主に「役に立つこと」だけでお金が動いていました。しかし、今の経済はもう頭打ち感が出ています。短期スパンでどういうベネフィットがあるか、だけを評価軸にしている社会では、どうしても一人勝ちが生まれる状態になってしまう。そこにリソースが集まってしまい、それ以外の人たちは存在意義をなくしてしまう。個人的には、「役に立つか/立たないか」という観点だけでサービスを行う時代はそろそろ終わると思っています。

PHOTOGRAPH COURTESY OF ALIFE Lab. (BY-NC 3.0)

確かに。今の社会は合理化に行き過ぎて、その弊害がフィルターバブルのような形に現れているという議論もありますね。ALife的なアプローチはそうした合理化に対するオルタナティブなアプローチだと。佐山さんにとってALifeの魅力というのはどういうところにあるのでしょうか?

基本的にはコラボレーションによって研究テーマは生まれます。組織学の人と一緒に交渉のプロセスをシミュレーションするプロジェクトであったり、生態学者と一緒に空間構造がある生態系の中でどう多様性を維持するかといった理論研究をやったりしていました。

たとえば、交渉のプロセスを単純なゲーム理論で解くと、合理的な意思決定をするエージェント同士のやりとりになります。一番単純な例でいうと、「売り手」側と「買い手」側の利得関数がそれぞれあって、価格はここで決まるというような。しかし、実際にビジネスで交渉するときは、解がどこにあるのかがわかっていないことがほとんどです。お互い初めての状況で、手探りしながら相手のことを理解していくような場合が多い。つまり、利得関数がわかっていない状態で最終的にまあまあなところに解を持っていくにはどうしたらいいかを探るのが目的でした。

実際に使った枠組みは「焼きなまし法」(シミュレーティドアニーリング)です。最初はとにかく大きな変更を許容してやってみる。時間が経つにつれ、どの程度の変更なら良しとするかという幅を下げていく。最初はダメそうなアイデアでも許容しながらなるべくめちゃくちゃに議論する状態からスタートして、じわじわまとめていくというのがうまくいくという。この手法は実際のビジネスの場面に当てはめるとより有効です。解がわかっている状況で話を進めても、もはやイノベーションは起きないので。