仏教・パーマカルチャー・合気道──複雑な世界と対話をするための「ALife」という哲学

ALifeの分野では、具体的にどのようにして実験を行うのでしょうか?

生命体の性質を持った非生命体同士を組み合わせる方法があります。ニューラルネットワークが進化するシンプルなロボットをつくって、ある特定のタスク(例えば、空間で○と△を判別する)を達成することを目標にします。

同僚のエイドリアン・トンプソンが実施した「フィールドプログラム型ゲイトアレイ」の実験がその良い例です。再設定可能な進化型ハードウェアで、チップの集団が進化しながら、発信型出力信号を出すことを目的としました。

すると、おもしろいことが起きました。元々チップはそれぞれ設定がバラバラで、ランダム化されています。自由に作業をさせていくうちに、適応度関数が生まれます。その中でどこまで発信器の性質に近づいているかを、観察し続けました。最終的に、チップは発信型の出力ができるところまで進化し、喜ばしい結果が出ました。

そんな中、一体何が進化を可能にしたのか?という疑問が湧きました。驚いたことに、この人工的進化の過程でチップの進化に影響を与えたのは、部屋の中のコンピューターから発信されていたラジオ信号だったのです。つまりチップは自分自身で信号を発信していたのではなく、自分のいる環境(=コンピューターだらけの部屋)を感知しながら、発信を行っていたのです。この実験から、進化は周りのあらゆるものを利用して起きる、ということがわかりました。これは、チップ、環境、適応度関数だけを単体で観察していただけではわからなかったことです。

ALifeのアプローチは、実験環境を細かに管理する通常の科学的方法とは違います。科学的実験では、例えば微生物を管理された環境で育て、単純・明確な株を選び、数式を証明しようとします。ひとつの次元で学びたいことがあるので、他のものを管理します。そこに驚くような結果は出ません。

ALifeは逆に、非常にオープンです。どんな結果も受け入れ、そこからシステムとの相互作用、進化、生体について学びます。チップの実験からは、生物的・進化的システムは周囲の環境にとてもオープンであることを教わりました。進化において環境について考えることは不可欠なのです。

つまり人工的な機械の中で、生命体の性質を持った非生命体が進化する過程を観察していくのですね。これは、人工知能(AI)とはどのようには違うのでしょうか?

ALifeとAIはシステムへのアプローチの視点が大きく違います。先ほど話したように、ALifeはシステムのオープンさや環境との相互作用を軸に、システムを生き物のように扱います。つまり、システムは「常に変化や適応をしながら存続していくことを目的とするもの」とみなします。また、生体そのものが目的や単純認知力を持ち、代謝を通じて自分で何かを生み出してしているという見方をします。

一方、AIの世界はとても制約されています。視覚認識やデータ分析、パターン認識、ディープラーニング、ものの分類、言語生成と認識などがAIに分類されますが、どれも人間の手で管理しながら制限の中で実験を行うため、狭い範囲内の問題にしか取り組みません。

例えば、ニューラルネットワーク(神経回路網)が行う画像認識。これは実は、単純な数学です。「知能」や「認知力」を使っておらず、実際はパターン認識をしているだけなのです。しかし人間はそれを「知能」として実際より高く評価し、AIには制約があることに気づいていません。

AIが高いコンピューティング処理能力を使ってシステムを単純化し、距離を取る一方で、ALifeはシステムの複雑さを理解し、予想外のことが起きても受け入れます。そしてシステムと相互作用を行い、観察を続けていきます。AIには現実の世界と相互作用を行う逞しさがありません。もちろん池上高志さんのように、ALifeの原理をAIシステムに取り入れることを試みている人もいますが、AIはまだまだ世界から隔離しています。

では、ALifeは現代の私たちの世界にどのように貢献してくれるのでしょうか?

ALifeは、グローバルな問題に対する哲学的アプローチで、政策に活用できます。気候変動、格差、都市化などをはじめとする問題はすべてシステムに関連する問題であり、それぞれ独自の勢いや動力を持ちながら多くのものや人が相互に作用しています。ALifeは私たちが住む世界を、常に変動を続けるオープンな生体として見ています。一方、現在のテクノロジーは、最適化されたマシンモデルのようです。環境から距離を置き、複雑なものを単純化するので、生体が持つような自己修復力、適応性、頑丈性がありません。

ALifeは例えばエコシステムを、テクノロジーのためのモデルとして考えます。エネルギーが循環する、多様で相互接続した要素を持つシステムをテクノロジーに当てはめてみたらどのような行動をとるかを考え、相互作用の方法を考えます。人間の管理下に置くのではなく、人間とシステムの相互作用を試みます。

たとえば、負荷の高い、小麦の農業生産を例に挙げてみましょう。小麦を高出力で最適に収穫するためには、毎年農地を耕し、種を植え、肥料や農薬を撒いて環境を超単純化します。しかし、もともとは複雑で自然な性質を無視して小麦を育てようとしているため、このシステムは非常に高いエネルギーを必要とします。また、小麦をはじめとする飼料用農作物は、同じ農地に生える雑草から進化したものなので、小麦用に生態的地位(ニッチ)をつくり出すことは雑草のためのニッチをつくることにもなってしまいます。

つまり、農業をするのに、自分で自分の首を絞めるという悪循環に陥ります。一度農業を始めると小麦と雑草の両方が育つ環境下で農薬の量を増やしていき、永遠に働くことを余儀なくされます。まるで、ギリシャ神話で永遠に大きな石を運び続ける罰を受けたシーシュポスのように永遠のループに陥ります。もし、一度働くのをやめてしまうと、すべてまた林に戻ってしまうからです。

問題は、単純化された農地は気候変動に対して非常に脆弱になることです。降雨量の変化ひとつで、このようなシステムは突然崩れて機能しなくなります。土壌構造を壊すため、農薬や肥料なしで土地での栽培を可能にする有機肥料や微生物が消えてしまうのです。そして化石燃料を大量に使います。

ALifeのアプローチでは、システムの複雑性をオープンに受け入れ、変化にも適応し、システムの中で相互接続するので省エネルギーで機能します。もともとこれはビル・モリソン氏の「パーマカルチャー」という概念に基づいています。パーマカルチャーは農業型エコシステムのコンセプトで、人間のニーズに見合ったエコシテムをつくったり、アグロフォレストリーのように食料や燃料のニーズを満たすための植林・植樹をしたりします。「私は何をしたいのか」と「土地(=システム)は何をしたいのか」の両方の問いを大事にし、人間がシステムの動力と共生していきます。

非常に乾燥した土地でお米を育てたいとしましょう。その場合は「システムは何を提案してくれるか? 放っておいた場合どのようにシステムと付き合っていけばよいか?」などを考える必要があります。そしてシステムと相互作用しながら、状況に合った、安定したものを導入したりつくったりしていきます。

パーマカルチャーではこのような農業のアプローチを、「合気道アプローチ」と呼んでいます。合気道は相手の打つ手を見計らいながら技を出し合い、勝ち負けを競わない武道である一方、人間が自然を支配・制覇しようとするような農業は「空手アプローチ」といいます。

先ほどの発信型チップの実験をとっても、チップのいる環境が出力信号を提供していたわけですから、ほかの大変な方法をとる必要などないのです。進化は常に環境が提供する動力と、自分の動力を元に起きるのです。

受動歩行のロボットを見たことはありますか? 人間の脚の形をした歩行器なのですが、エンジンなしでスロープを降りていくことができます。まったくエネルギーを使わずに動くことが自然の動態です。生物学も同じように、自分の環境にあるものを吸収しながらシステムをつくる方法を探そうとします。このような進化の形はひとつの結果を出すためのエネルギーを大量に消費しないし、何よりも美しくエレガントなのです。

2013年のTEDx SouthamptonUniversityにてアレックスが行ったトーク「合気道システム:複雑なシステムをエンジニアリングするための哲学」

アレックス・ペン Alexandra Penn

アレックスは、サセックス大学で物理学と進化生態学を学び、コレギウムブダペスト高等研究所でのジュニアフェロー、サウサンプトン大学自然科学グループのライフサイエンスインターフェースフェローシップを歴任。彼女はまた、学問分野を超えて、政策立案者から産業家までと学際的な研究活動をしている。アレックスは、複雑系の研究者で、参加型の方法論と数学モデルを組み合わせて、利害関係者が、その複雑な人間関係におけるエコシステムを理解し、“操作“するためのツールを研究しています。サリー大学の研究員として、彼女は意思決定者が「産業生態系」の社会的、生態学的、経済的、政治的要因の間の相互依存性を調査するための参加型複雑性科学方法論を開発した。人工生命学会においては、国際社会におけるALife研究の影響を検討する理事会のメンバー。(出典: http://cress.soc.surrey.ac.uk/web/people/apenn)

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