仏教・パーマカルチャー・合気道──複雑な世界と対話をするための「ALife」という哲学

アレックスさんは今後、どのようなALife研究を進めていきたいと考えていますか?

今後はツールとして、ALifeの哲学をデータ分析に活用できるかどうかを研究していきたいと考えています。現在のデータ解析は結果に「人間の日常の中で本当に大事なもの」が含まれていません。例えばペットや家族、街への愛情、仕事やシステムとの関わり方を決定する人の知識などは、データ解析に反映されません。今後はAIとデータがより人との関わりや価値観を織り交ぜ、誰でもアクセスしやすいようにすれば、システムと相互作用をする方法を想像しやすくなります。

もちろん、注意点もあります。たとえば、データだけに頼るのは危険です。現在私はすでにイギリス政府の政策者や利害関係者と環境やエネルギー、農業の分野の政策にALifeの活用を取り入れるためのシステムのプロトタイプをつくっています。システム内での影響力のあるものを識別し、影響力を想定します。合気道アプローチでシステムと関わりながら、大きな変化を起こせる解決策を探ります。

その際に、データが問題をすべて解決してくれると考えないことが大事になります。システムの問題、たとえば都市、森林システム、農業経済、地球で起きていることは、膨大な動力と非常に長い時間の流れの中で起きています。ALifeはその時にシステムで起きていることを知らせてくれると同時に、私たちの時間軸の中でその問題に対してどのようなアクションを起こせばいいかを教えてくれるのです。例えば、自分の家の庭や畑で、Alifeの概念を実践し、社会に貢献していくことができます。

ALifeはまるで子供の成長を見守ることに似ていますね。子育てをしながら親は間違えることもあるし、うまくいくこともある。そして親が無理やり子供の進路を決めようとすれば、抵抗される。システムも同様ということですね。

それはいい例えです。子供には生まれつき性格というものがあります。性格を無視して育てることはできませんし、コントロールもできません。「子育てにこれが正解」という方法もありません。なのに、複雑なシステムや政策となると、人々は突然「正解」を求めてしまいがちです。

先ほどの仏教との比較にもまたつながる気がします。ある住職の方をインタビューした際に「人生に答えはない、しかし人間は常にそれを探し求め、早く答えが出ることを求めすぎる。だからストレスが溜まるのだ」とおっしゃっていました。
同じように人間は以前は、自然と共生して自然の反応を見ながら農業を行っていたはずなのに、いまやすぐに成果物がほしいために大量の農薬を散布し、二酸化炭素を放出し環境に悪影響を及ぼす活動を続けています。

まさに、現代の農業でも、人間のエゴのために同じようなことが起きています。環境からの直接の反応を待たず、むしろ反応を出させないようにコントロールしています。古代の自給自足農法であれば、急な斜面で農業をするために木を切り倒したら土壌はすぐに崩れ、様子を見ながら作業をしないと人間にとっては不利益でした。

ところが現在のように影響がすぐに出ないようにシステムをコントロールすると、その後のことについて考えたり、学んだりできません。かといって、古代の方法に戻ることを私は推奨しません。地球の表面はいまや農業のせいでとてつもなく変わってしまい、膨大な種類の生物を一掃しエコシステムを変えてきました。長期の視点で考えると、地球にとっても人間にとっても良くありません。

グローバルな問題はスケールが大きく、一個人として途方に暮れてしまいます。ALife的哲学は私たち自身の生活でも実践できますか?

まずは自分の生活や地域でこそ、始められます。自分の住む地域が、複雑で適応的なシステムであるかを意識することです。そこで、どのように人と関わっていけるか? 人を巻き込んでいけるか? 街の動力はどのようになっていて、何とつながっているか? といった問いかけをしていくのです。行動を起こさないことには、何も変化は起きません。身の回りで起きていることをしっかり観察し、システムにどのようにつながっているかを認識するのです。

そうなるとつい、自給自足の生活に戻ればいい、と考えがちですがそうではありません。いまあるシステムの問題点を見つめ、そこの中でどのように関わっていくかが大事です。生体は常に変化を続けています。そんなシステムの性質を理解し、関わり、相互作用し、学び続けていくことが大事です。決して一度きりの意識ではなく、ずっと意識し続けることです。

そして私たちは、ひとつの方法ですべての問題は解決できないことを理解し、自分の周りのローカルな活動がグローバルな世界に影響を及ぼさないようにすることも考慮しなくてはいけません。私たちは、いつまでも学び途中なのです。

政策者も一人の人間であって、パーフェクトであるはずがない、ということを市民として忘れがちですね。システムの動力を理解するということは、人間同士での関わり方を学ぶことでもありそうです。

そうです。政策者も、システムも、人間も。完全無欠なものなど、存在しないのです。

アレックス・ペン Alexandra Penn

アレックスは、サセックス大学で物理学と進化生態学を学び、コレギウムブダペスト高等研究所でのジュニアフェロー、サウサンプトン大学自然科学グループのライフサイエンスインターフェースフェローシップを歴任。彼女はまた、学問分野を超えて、政策立案者から産業家までと学際的な研究活動をしている。アレックスは、複雑系の研究者で、参加型の方法論と数学モデルを組み合わせて、利害関係者が、その複雑な人間関係におけるエコシステムを理解し、“操作“するためのツールを研究しています。サリー大学の研究員として、彼女は意思決定者が「産業生態系」の社会的、生態学的、経済的、政治的要因の間の相互依存性を調査するための参加型複雑性科学方法論を開発した。人工生命学会においては、国際社会におけるALife研究の影響を検討する理事会のメンバー。(出典: http://cress.soc.surrey.ac.uk/web/people/apenn)

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