AIだけじゃ「本当の知能」はわからない。ALifeの完成こそAI研究のゴールである

第三次人工知能ブームにより、AIやディープラーニングといった言葉が人口に膾炙する今、人工生命(ALife)もまた注目を集める研究分野となりつつある。両者の違いおよび存在意義はどのようなところにあるのだろうか。広く社会や人類に貢献できるテーマの研究を行うソニーコンピュータサイエンス研究所(Sony CSL)で、ALifeの研究者としてニューラルネットワークを活用した予測の基礎研究に携わっているラナ・シナパヤに訊いた。

インタビュイー
ラナ・シナパヤ

PROFILE

ラナさんのバックグラウンドと、現在取り組まれている研究テーマについてお話しいただけますか?

私はフランスの大学でエンジニアリングを専攻してプログラミングを学んだ後で日本に渡り、東北大学の修士課程で人工知能(AI)の研究に携わりました。日本に来た理由はフランスにいたときに日本語を勉強し、インターンで1カ月間日本に滞在した時に日本が好きになったからです。

大学院に進学した際、研究テーマにAIを選んだ理由は、ロボット開発に関心があったからです。私が研究していたことは、賢いモデルをつくり、それをロボットというハードウェアに搭載することでした。そして人工生命(ALife)の一部である身体性認知、つまり身体を通して得られた情報を取り込みながら実行される情報処理の研究に関心を持ったため、博士課程では東京大学の池上高志先生の研究室に入ることにしました。そこでALifeの研究に携わるようになり、今に至ります。

PHOTOGRAPH COURTESY OF SONY CSL

ラナさんは、AIとALifeをどのように区別していらっしゃいますか? というのも、読者の方の多くは特に後者についての予備知識が、まだないと思います。

私はAIとALifeをはっきりとは区別しておらず、延長線上にあるものとして捉えています。あるいはAIはALifeを構成する一要素だと。本当にALifeをつくることができたならば、そのALifeが進化することでAIも現れるはずです。ですから完全なるALifeを実現できたとき、AIの研究もゴールを迎えるのだと思います。

ただ、AIとALifeの進化のアプローチは真逆だと考えています。近年主流となっているAI、特にコネクショニズムに基づくニューラルネットワークの歴史を見ると、まず「分類・格付け」のシステムがあります。例えば画像解析により、特定の画像に映っている動物が犬なのか猫なのかを判断できるようになりました。次にユーザーの行動予測などを含む「予測」がトレンドになりました。さらにこの予測システムをロボットに搭載し、何かしらの「行動」をさせるケースが最近増えています。つまり、AIの進歩の経緯を辿ると、まず分類や格付けをし、次に予測をし、最後に行動をするということがわかります。

ところが生物の進化を見るとその逆です。まず微生物が現れますが、彼らは自分たちが生存するために食べたり、より快適な環境を求めて動いたりするといったことしかできません。もう少し進化すると、より適切な行動ができるように、この先に何が起きるのかといった物事を予測する能力が生物に備わります。ただ、その予測も一般化しないことには、未知の事物に対応することができません。ですから進化の次の段階として、より精度の高い予測や判断をするために分類や格付けの能力を持つように進化します。ですから、ALifeに則ったアプローチをするなら、最終的には予測と分類および格付けの能力を開花させられる環境を整えるべきだという論文を書きました。

ラナ・シナパヤ Lana Sinapayen

2012年ホンダ・リサーチ・インスティテュートで研修し、初めて研究の世界に注意を向けた。2015年東北大学修士課程修了(情報基礎科学)。同年仏INSAエンジニアリング学校卒。本来実装していた本格的な数学モデルからはなれ、人工生命の研究室に移動し2018年東京大学博士。博士課程の間多文化共生・統合人間学プログラムに採用され、東京大学一高賞を受賞。2018年9月よりソニーコンピュータサイエンス研究所研究員。認知アルゴリズムを実世界のアプリケーションに利用することによって、生物の知能の理解を目指す。

「何かを理解するためには、その何かを自分で作るのが最善の方法だ」、と私は人工生命の研究をしていて思います。そして、人工知能の研究者として私は知能を理解するためにニューラルネットワークを作り、作ったニューラルネットワーク自体は周りの世界を理解するため、センサーからの入力を予測し世界を再生成します。知能の研究では、神経細胞のマイクロなダイナミクスのモデル化から得られる知識には限りがあり、逆に生物のマクロな振る舞いのモデル化から得られる知識にも限りがあることから、ハイブリッドな合成アプローチが必要なのではないかと考えています。認知科学の視点から問題を考え、解決方法を生命らしさと関係なく最適化するアプローチをとることにより、認知や知能のプロセスの目的とその派生物の区別が可能になります。そのうえで、新しく生まれたアルゴリズムが実世界で役に立つと考えています。(出典: https://www.sonycsl.co.jp/member/tokyo/6576/)

プロフィールを閉じる