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Society As It Could Be ; ALifeがもたらしうる社会

人工知能による"極端な効率化"の弊害が起こりつつあるいま、人工生命はいかなるオルタナティヴなアプローチを提供できるのか。10人の人工生命研究者へのヒアリングから見えてきた、ALifeの視点や技術がインストールされることで実現するかもしれないこれからの「ありうる社会」。

City/「進化」の視点から都市をデザインする

ALifeの研究分野のひとつに、「カルチュアル・エボリューション」がある。言語や食といった文化の発展を調べることで、その進化メカニズムを探究するものだ。ある文化において引き継がれやすい性質や進化の方向性を決める「文化の遺伝子」がわかれば、進化の方向をデザインすることも可能になるだろう。このアプローチを「都市」に応用すれば、たとえば自分の街を「子育てをしやすい街」に進化させることが可能になる。世界中の都市から子育てをしやすい街を選び、それらに共通する「遺伝子」を抽出することがで、意図した方向に街を進化させるための施策を打つことができるからだ。このアプローチは組織やビジネスの進化においても応用可能である。

Politics/複雑な社会課題にアプローチするための政策をつくる

気候変動や経済格差、都市への人口集中といった社会課題は、すべて「システム」に関する問題だ。複雑で独自の動力を持つこれらのシステムは、人間が100%管理することができず、しばしば予想外の現象を起こしうる。ALifeの考え方では、こうしたシステムを単純なモデルではなく「常に変動を続けるオープンな生体」と捉えることで、長い時間軸のなかで、人間とシステムの相互作用を通して状況の変化に適応することを目指す。イギリスではすでに、エネルギーや農業の政策にALifeの視点を取り入れる試みが行われている。まだまだ「人類はあらゆ る物事をコントロールできるはず」という考えを持つ人も多いなか、こうした哲学を一般に受け入れてもらうことが今後の課題となるだろう。

Ecology/ロボットスワームで生態系の崩壊を防ぐ

ミツバチや魚といった群生物を模した「ロボットスワーム」を自然界に溶け込ませることで、ロボットを介して生態系に干渉することが可能になる。生態系におけるさまざまな生物の行動を忠実に再現したロボットたちは、群れの一員として受け入れられ、集団はロボットと意思疎通を始めるようになるのだ。このロボットスワームから特定のシグナルを発信することで、群生物に人間が意図した行動を促すこともできる。気候変動によって生態系の崩壊が進むなか、ロボットスワームによって自然界と対話をし、データを集めることで生態系の現状をより正確に把握し、崩壊を食い止める方向に生物集団を促すことにより、地球の生態系を守るための解決策を見つけることができるかもしれない。

Energy/まったく新しいクリーンエネルギーをつくり出す

ALifeに限らず、基礎研究が世界に与える影響や恩恵は、「その時代に必要とされるテクノロジーが何か?」という問いに大きく左右されることになる。エネルギー問題や環境問題というグローバルで取り組まなければいけない課題に人類が直面するいま、ALifeの基礎研究もこれらの課題の解決策につながりうるだろう。たとえばCO2と水からエネルギーを生み出す植物、あるいは窒素やメタンからエネルギーを生み出す細菌のメカニズムを応用した人工生命をつくることで、まったく新しい種類のクリーンエネルギーを生み出せる可能性がある。ほかにも、もしプラスチックを栄養に変えて生きられるような人工生命をつくることができれば、廃棄物処理においても役立つことになるだろう。

Astrobiology/「カオスの淵」にいる生命体を発見する

ある環境の時系列データの複雑度を分類するとき、予測できる単純なパターンと予測できないカオスの間には、「カオス の淵」と呼ばれる複雑なパターンが存在する。そして生命は、このカオスの淵に存在するといわれている。地球以外の惑星から取得したデータをニューラルネットワークで解析し、データの複雑さを測定することによって、その惑星に生命の痕跡である「バイオシグネチャ」が存在するかどうかを見る研究がすでに行われている。そしてこのアプローチは、アマゾンや砂漠といった地球上の僻地において「生命がどれくらい存在するか」を測定することにも応用可能である。また医療現場や研究室内で、雑菌が存在しないかどうかを確認する手段としても活用されうるだろう。

Organization/持続可能」な組織を設計する

ALifeとは、”役に立たないこと”を扱える分野である。生命が「ただ生 き残ること」を目的に存在するように、効率化ではなく、持続可能=サ ステナブルであること、そのために多様=ダイバースであることに価  値を置くのがALifeの考え方だ。この視点は、企業やコミュニティをいかに長く続けるかを考えるうえで”役に立つ”。短期的なゴールを設定せず、組織の中には何も構造がなく、多様なメンバーがフレキシブル に存在・活動し、誰でも入っていいし誰でも出ていっていい──そん なALife的特徴を持つ組織こそが、未来をサバイブする組織となるだ  ろう。修行した人々がそれぞれ独自のブランドを展開する「暖伩分け」というシステムも、ロバストな組織のあり方といえる。

Neuroscience/バーチャルリアリティで「意識」の謎を解明する

ALifeでは、生命システムや生命現象を人工的に作ってみることで理解を試みる「構成論的アプローチ」をとる。この考え方を応用すれば、バーチャル・リアリティ(VR)を用いて意識や心のメカニズムを理解することが可能になるかもしれない。たとえばVR内で幽体離脱体験や幻肢・幻聴、統合失調症患者が自分の身体を自分のものではないと感じるエイリアンハンドシンドロームなどの体験を作り出し、そこに置かれた人々の様子を観察することで、これらの体験のメカニズムや治療方法を解明できる可能性がある。鎮痛作用や催眠作用、てんかん治療などのために使用される医療大麻の代わりに、VRを用いて同様の効果を得るような治療も実現しうるだろう。

Communication/「協力」を促すコミュニケーションシステムを設計する

ALifeの研究分野のひとつに「協力の進化」がある。どのような条件下で個体同士は協力するのか、あるいは協力しないのかをシミュレーションによって解 明するものだ。その知見を実世界の組織に応用す  ることで、個々のメンバーが協力的になるように教 育するのではなく、組織構造やコミュニケーション  の仕組み、あるいはゲーミフィケーションのような   ルール設計の観点から協力を促すことができるよ  うになるだろう。またTwitterのようなSNS上における悪質なコメントを「非協力的な行動」と捉えれば、たとえばそれらの情報の伝達速度を遅くするといった設計をすることで、ネットワークに広がりにくくす るような環境を作ることもできるかもしれない。

Philosophy/「意思と環境」の影響力を測定する

ALifeの研究テーマのひとつに「自律性」がある。いかなる環境下で自律性が発動されるのか、そのメカニズムがわかれば、「意思と責任」に対する社会の考え方は大きく変わるだろう。近代社会は、人を自律性と意思を持つ個と捉えることにより、責任の所在を明確にしてきた。アルコール依存症の人に対しては、自らの意思で酒を飲んだ責任を問う。しかし、人がどれだけ自律的である かが環境によって左右されるのであれば、酒を飲んでしまうのは意思ではなく環境の問題とも考えられる。ある行動における意思と環境の影響力の比率を測定するようなことが可能になれば、個に100%の責任を問うのではなく、環境を見直すことで状況を改善することにつながるだろう。

Perspective/人類の「新しい認識」を生み出す

ALifeに関わる人々の多くが口を揃えるのが、この学問が「世界の新しい見方」をもたらすということだ。ALifeは「生命=DNA」と思われ  てきた伝統的な生物学の考えに対するアンチテーゼであり、トップ ダウン型で知性を作り出すAIとは異なり、ボトムアップで立ち現れ  る知性の構築を目指す。そして、マッシブデータを俯瞰して捉えるこ とで、ミクロな状況だけを見ていてはわからなかった視点を提供する。さまざまなアートや社会応用を通してALifeの視点や哲学が世界に実装されたとき、そしていつの日か人工生命が作り出されたとき、生命と非生命、人間と機械、モノ、意識、知性、自然に対する、人類の認識や価値観は大きく変わることになるだろう。