13 Themes of Alife ; ALifeの基礎を知るための13テーマ (後編)

人工生命は極めて学際的な領域であり、一言に「ALife」といってもその研究対象やテーマは多岐にわたる。ALife研究にかかわる代表的な13 のテーマを、 2014 年10 月に『Frontiers in Robotics and AI』に掲載された論文「The Past, Present, and Future of Artificial Life」から紹介する後編。

Artificial Societies/人工社会

同じ種の個体同士のインタラクション」と定義される社会を実際に調べることは非常に難しい。そのため社会システムをコンピューター上でモデリングし、起こりうるインタラクションを観察するアプローチは大変有用だ。たとえば協力行動の進化は人工社会における代表的な研究テーマであり、「お互い協力するほうが双方によい結果になるにも関わらず,出し抜いて協力しない方が利益を得る状況では互いに協力しなくなる」という「囚人のジレンマ」は多くの科学者が取り組んできたトピックである。そのほか人工社会の研究は言語やコミュニケーションの進化の理解に貢献してきたほか、『Creatures』や『The Sims』といったゲーム開発にもつながっている。

Behavior/行動

AIとALifeの違いのひとつに、「行動を生み出すプロセス」に対する考え方がある。AIの伝統的な考え方では、エージェントの 行 動 決 定 は「SMPA(Sence-Model-Plan-Act)モデル」によって行われ、環境との相互作用よりも内的な世界の認識に基づき動作が生み出される。それに対してALife では、エージェントの行動は環境からの情報を知覚しながら形作られると考える。1990 年代には、行動とは感覚運動ループのダイナミクスを通して理解・デザイン・分析されるというALife 的な考え方が広く認識されることになった。生命の「身体」と「認知・意識」の関係を解き明かすために必要なのは、AIではなくALife的アプローチであるといえる。

Computational Biology/計算生物学

理論生物学は、抽象的な生命システムを研究するにあたりALifeを先導した。その代わりにALifeは、コンピューテーショナルモデルとツールの発達とともに理論生物学にも寄与することになった。顕微鏡が微生物学を生んだように、コンピューターの誕生は「複雑系」を調べることを可能にしたからだ。生命におけるさまざまなスケールの複雑なシステムを研究するシステム生物学も、コンピューターなしには生まれなかった分野である。数学モデルを用いて生命現象を捉える計算生物学は、遺伝的調節ネットワークモデルや進化メカニズムを理解するために貢献してきたほか、近年では複雑な生命システムに関する知見は分散型コンピューターやセキュリティーの分野にも応用されている。

Artificial Chemistries/人工化学

「非生命体」と考えられている化合物から、細胞のような「生命体」はいかにして生まれるのだろうか? 人工化学とは、こうした化合物の観点から生命の起源を探ったり、原始的・生物化学的な進化のメカニズムを調べたりすることでこの問いに挑む領域である。人工化学分野の研究として行われた代謝ネットワークと膜をもつプロトセル(原始細胞)のコンピューターシミュレーションは、オートポイエーシスの概念を生むことにもつながったといわれている。そのほか、自己触媒反応やアルゴリズミックケミストリーといった、化学と生物学を横断するさまざまな研究が行われている。また人工化学分野の研究は、進化や自己組織化のメカニズムを理解することにも貢献している。

Information/情報

「カオスの淵」に存在する生命は、安定と変化、ロバストネスと適応能力のバランスを常にとる必要がある。そのバランスを見つけるために、生命がもつ適応能力やホメオスタシス、自律性、オートポイエーシスを測定することはできるのか?これらの生命の特質を測定する方法は長らく確立されていなかったが、近年は情報理論の観点から生命現象を観察する試みがなされている。例えば2014 年には、オートポイエーシスを「システムと環境の複雑さの比率」から見る研究が行われている。生命体が自律性を持つためには環境よりもより複雑であることが求められるというこの考えは、生命と非生命の境界がグラデーションのように変化するものであることを示唆している。

Living Technology/リヴィング・テクノロジー

ALifeの分野で近年使われるようになった「リヴィング・テクノロジー」とは、生命体が持つ特性に基づいた技術である。この技術は、適応性をもち、ロバストで、自律的かつ自己組織的だ。またリヴィング・テクノロジーは、非生命体から構成される「プライマリー技術」と、すでにある生命体を用いてつくられる「セカンダリー技術」に大別することができる。プライマー技術の例であるプロトセル設計や人工細胞は、エネルギー生成や環境汚染の解消、健康改善のために利用できるだろう。またセカンダリー技術は、社会技術システムのなかで応用できるだろう。政治や経済、都市が”もし生きていたら”、それらはいまよりもよりよく機能するに違いない。

Art/アート

AI研究のメソッドは創造活動の発展に寄与してきたが、ALifeにおいてもそれは同様だ。進化的アルゴ リズムのようなALife のメソッドは、アートワーク、デザイン、ビジュアルアート、音楽などをつくるために活用されてきた。また「遺伝子の芸術 – 人工生命」をテーマとした1993 年のアルスエレクトロニカや、1999 年より始まった「The VIDA Art and Artificial Life International Awards」、2018 年に人工生命国際会議「ALIFE 2018」と同時開催する形で始まったALIFE Lab. 主催の「ALIFE Art Award」のように、ALifeアートに焦点を当てた国際的なイベントやアワードも行われている。科学者とアーティストのインタラクション、サイエンスと人文科学の相互作用は、今後さらに増えていくことが期待される。

Philosophy/哲学

ALifeはいくつかの哲学的な問いも扱ってきた。「生命とは何か?」という問いは存在論にとっても重要 であり、生命システムを理解することは認識論にも必要とされるものだ。ALife科学者たちの知見は、「現存とは何か?」という哲学的議論にも貢献してきた。そして何より、「生命を作り出すこと」は必然的に倫理的影響を伴うものといえる。ALife の哲学には、たとえコンピューター上で構築したシミュレーションであっても生命モデルを本物の生命として扱う「強い人工生命」と、生命モデルはあくまでモデルであり本物の生命ではないと考える「弱い人工生命」の2 つの考え方がある。コンピューター上の生命をどう扱うかを考えることは、「心の哲学」にも関係するテーマである。